和の流儀に学ぼう
料亭女将の「マナーの金言」其の九
過去のバックナンバー一覧 

薫風渡りゆく、五月の空。
和やかさが心に染みる季節です。

柏餅

 風薫る爽やかな季節となりました。五月と言えば端午の節句。江戸以降は男子の節句とされ、鎧や兜を飾 り、鯉のぼりを立て、子どもの成長や立身出世を願ってお祝いをします。鯉のぼりは『鯉の滝登り』に由来さ れ、古代中国では滝を登りきった鯉が登竜門をくぐり、天に昇り龍となるという故事が元になっています。 また端午の節句に召し上がる物のひとつに柏餅があります。柏は新芽が出るまで古い葉を落とさないこと から「家督が途絶えない縁起物」として用いられるようになったと、言われています。




【同じ料理?「懐石」と「会席」】

今回は「懐石」と「会席」の違いについてお話します。発音が同じふたつの料理は、近年あまり区別なく使わ れることが多いのですが、本来は全く別の料理です。
 「懐石」とは茶の湯の茶事で出す料理。お茶をいただく前に空腹を癒すため、お茶を美味しくいただくため のものです。その昔、禅宗の修行僧が朝と昼の二食しか食べなかったため、飢えと寒さをしのぐために温石( おんじゃく)を懐に入れたことを表しています。お茶の各流派によって流儀があり、作法も異なります。
 一方「会席」は武士や貴族が宴席でお客様をもてなすための料理が始まり。ですから厳しい作法はありません。
 今では、料亭や旅館で提供される和食のコースはほとんどが会席と言えます。つまり懐石はお茶を美味しく 飲むための料理、会席は酒を楽しむための料理と言えるでしょう。


【心でもてなす料理。それが懐石の心】

普段余り馴染みのない懐石料理について、実際にお出しする順に詳しくご説明いたしましょう。


[ 飯 ] 最初に供される、炊きあがってすぐのご飯。少量盛りつけます。 料理1
[ 汁 ] みそ汁です。冬は白味噌、暖かくなると合わせ味噌に。夏に近づくにつれ、赤味噌の量が多くなります。
[ 向付 ] 向こう側に置く器なのでそう呼びます。昆布〆にした刺身に、出汁を加えた加減醤油をかけたものです。作法として、客側はお酒を勧められてから手をつけます。
[ 煮物 ] 飯、汁、向付の後にいただくお料理。大ぶりのお椀にたっぷりの具が供されます。懐石のメインディッシュとして一同揃っていただきます。
[ 焼物 ] 骨を取り除いた魚の切り身の焼物が一般的。人数分盛付けていますので、向付の器に取り回します。
[ 強肴 ] 野菜や魚鳥などが一緒に盛付けられる焚き合せや、酒の肴となる酢の物(和え物)。焼物同様、取り回します。 料理2
[ 箸洗 ] 小吸物とも呼ばれ一口のお吸物。箸を洗い、さっぱりと口直しをするものです。
[ 八寸 ] 海と山のもの2種以上の珍味が盛られます。小吸物の蓋に亭主が取り分けます。一辺が八寸の杉の器に盛付けたことから、こう呼ばれます。
[ 湯桶 ] 懐石の締めくくり。?底に焦げついた炒米に湯を足して煮た湯の子(粥)を湯桶に入れて供します。
[香の物] 季節の野菜の漬物を3種以上盛付けます。湯桶と一緒に供します。


以上が、料理のおおよその流れです。ただ、懐石は喰い切りが約束事なので、食べられない装飾はありま せん。高価で、作法の厳しい料理と思われがちですが、本来は形ではなく、旬の素材を使い、客との遣り取 りや給仕のあうんの呼吸などが心地良い「奥の深い究極の心でもてなす料理」と言えるでしょう。
 ひとつの器に盛られた料理を客が取り回すことで、穏やかな一体感が味わえるのも懐石の特徴です。


【女将金言】

このコーナー、今回が最終回となります。最後に懐石のお話をしたのは、多くの方に茶の湯についても、 興味を向けていただきたかったからです。
 料亭は茶の文化なしでは語れません。料理をはじめ、玄関や庭の佇まい、座敷の花や掛け物、給仕する者 の立ち居振る舞いまで全てに通じるものがあります。丹精込めて厨房で作る料理、それを大切に運び、美し い所作で配膳する。これに応えるように客側も感謝していただく。そんなお互いを思いやる心は、茶の湯の 精神から学ぶことが多いのです。
 これが日本人の良さであり、豊かな日本を育むと思います。機会がございましたら、ぜひ触れてみてください。




料亭「二蝶」女将 山本 容子さん

〜PROFILE〜

(やまもと ようこ)
料亭「二蝶」女将
68年6月、香川県高松市に生まれる。
大学卒業後、営業の仕事を経て家業の二蝶に入社。
97年に現社長の山本亘氏と結婚。ご主人の修業先の京都で4年間過ごす。
その後高松に戻り、若女将として二蝶の仕事に就く。09年より先代のお母様から女将を引継ぎ現在に至る。








四国讃岐の老舗料亭「二蝶」

四国讃岐の老舗料亭「二蝶」

風光明媚な瀬戸内海に面した高松。その地に戦後間もない昭和21年(1946年)に初代が旅館として創業。
その後先代が料亭にし、現在に至る。
瀬戸の新鮮な魚介類、讃岐でしか味わえない野菜や果物など、四季の恵みを最大限に生かす料理と、和の心を大切にしたおもてなしで訪れる人を心から満足させている。